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2007年06月07日

#7 橋の向こう側から


これはある友人の話なのですが…

私には、好んでよく一人旅を
していた友人がいました。



特に、誰かと一緒というわけではなく、
はっきりと目的を定めず、何かを考えながら
意味も無く出かけるのが

結構好きだったようです。


よく出掛けては、
日光浴をしながら歩き回るといった感じで
余暇に散歩を楽しむ様な気楽さ…


それは彼の性格を象徴するようでした。

ただ単に地味で一人きりと言っても
陰湿な雰囲気を感じさせない理由を
その友人は弁解もせずに持っていて…


それは一人で出掛けたその先で
自分なりに何かを思い付いて、
その内容を後で話してくれたり、
別の形で表現するという

ひたむきさともいうべき、
愉快さがそれであり、

毎回、何かを発見しては
それについて考えているからで。


それは旅行や遊びに行った先のこととは
おおよそ察しも付かない、
全く関係も無いことだったりもして
話して聞かせてくれるところがまた

可笑しかったりします。


可笑しい。


そう、ただこう聞いただけでは
変人に聞こえるかもですが。


でもそれはまるで物語じみた
不思議な体験談の様に
ていねいな物腰で語ってくれる
ことが次回作を期待させました。



内容の事実かどうかなんて
どうでもよかったんです。



何でそうなる?
なんでそんなことを思い付くんだろう?


そこが楽しくて。



その友人の話はどこかにふらっと消えて、
そして戻ってくるたびに私が


どこへ行ったの?


ではなくて


何か面白いことあった?


と聞くと、色々と教えてくれる


奇想天外な話が面白かった。



毎回意表を突いていたので
新鮮さを覚えてました。


まるで友人が全くの他人に
なってしまったかの様に…。


でもそれも毎回なことなので
気にはしなかったけど、

例えれば、別のジャンルの話を
毎回しているようなもので…


日常会話云々はおいといて、
この友人と結構長くやっていけて
いるのは自分がその話を楽しみに
するようになったからだと思いますよ。

その友人も他に真剣に聞いてくれる
相手もいないともらしていたことも
あったので理由は間違いなく一理ある
だろうと思います。


友人も快く語れる相手が居てくれて
悪い気はしなかったんだろう…なんて。

たとえ、聞かせる相手無しでも
愉快さは薄れることはないでしょうし。

誰かに認められるから、
そこに居るわけでもない価値がそこに
見え隠れしているような気さえします。



得意そう話してくれるんですが
自分自身で反芻する様に
瞳を輝かせているのは

私をその気にさせてくれるには
十分な動機付けだった思います。



何かを思い付いて話してくれる。

巧みに話を組み立てて。


それを閃きとでも言うんだろうか、

とか思ったりもして。



友人の顔が

いやに生き生きしているのは

印象的でした。



ところで今回の話はというと、

友人がある行楽地に遊びに行った
ときのことらしいのです。



天候は曇りで、
少し風を感じる日だったそうです。


一人でふらりと歩道を歩いていると、
向かい風を感じる、そんな陽気。

何かが来る、そんな風に
気分を高めていたそうです。


大きな橋で車は通らないけど
横幅の広い長い橋で。


橋の下には河があるが
それは自然に任せた場所に
作られた橋の特性で

大型の貨物車の運搬用の通路ではなく、
道行く人のための橋から眺めを
楽しむ様といった方が
適切な場所と目的。


現に橋の下や遠くを眺めて
一服やってる人はぽつりぽつりと
見かけられそうです。


彼らも自分と同じ匂いを
かもしている様で嬉しかったみたいです。



下を見たままうつむき、
ぶつぶつと何かしらつぶやいている人が
いるのも、ある時間帯にしてみれば
必然と言えば当然かもしれないって。




橋から下までは



高い。




とりあえず下までの距離は
結構なものだったみたい。


なので人が下に誤って落ちたり、
故意に降りたりしないための仕掛けは
工夫されていたようです。



仰々しいもんじゃない、
ただ若干高い手すりがあった。
それだけのこと。


友人はいつものように
物思いにふけりながら歩いて行って、

まあ、橋を渡っていく、

風は音を立てて吹いてはいるものの
不快ではなかったそうです。


行き交う人もまばらで
そう大したことない橋の眺めも
観光目的以外の人の動向も

気になったようです。

橋の始まりと終わりには
ベンチや露店まで設置されていたので
それなりに時間を楽しむことは
できそうではあると。


そのかわり活気がある賑わいが
あるというより、
雰囲気溶け込むような楽しみ方が
似合っている、そんな場所だと
言っていました。


………


ちょうど、橋の中間まで来たところで、
自分の正面に橋の向こう側から
こちらに向かって来る人がいたようです。


少し焦点を合わせて見ると、
歳のいった男女がなにやら話しながら
ゆっくり歩いて来ている。

ただそれだけのこです。


変わったところは何もなくて。


他にも歩いている人はすぐ近くと
いうわけではないけれど、
ちらほらとうかがえる状況で。


なのにどうして、
その男女が気になったんだろう?
と、不思議に思ったそうです。


何かがちらちらと、
その男女の周りをうろついている
ことにようやく気が付いたそうです。



子供???


背丈が低いのでそれは
そうだろうと思って。

だって遠目に見たら、
男女の後ろを行ったり来たり
しているので、よく確認は
できないけれどそう思うは
常識的だって思った言ってました。


はしゃいでいるような動きが
特徴的なので幼子だろうと
直感的に思ったそうです。



これは男女がこの子供の親か、
男女が夫婦であることを
暗に意味していることは
容易に想像できたそうです。



特に明らかに目立つ色の服を着ていて。



真っ赤な服。

真っ赤な膝位までの丈のスカート。


どうやら近付いてくるにつれて
シルエットがはっきりしてきて。


その鮮やかな真っ赤な色は
目に焼き付いたように様に
視線を奪われた言ってました。



どうやらその子供はスカートと
人形のような行儀のいいおかっぱで
前髪と後ろ髪をそろえていることからも
女の子のようだったと。


更年期の夫婦の子供としては
幼すぎると感じていると


そう思っていつの間にか

20メートルくらいの前方に
迫ってきて。



あれ???



ちょっと待てよ…


何で気が付かなかったのだろうか…


って思ったんだって。



あの赤のせいか…


いつも考えて歩いている
せいなのか…



いやいや、


少女が高い。



はッ!?



背が?ではなく、
手すりの上を歩いていたんだって。



それも平均台上を行くかの
ような大した苦労も要せずに。


いや幼い少女が平均台をふらつかずに
歩けるのか?

という疑問の後に、


いや確かにふらふらしているのにも
気付いて…


しかし…今は風が吹いているのにも
気付いて…



というか………

そんなことを言っている場合
ではないって焦ったようです。



危ないだろう!!



どう考えても。


夫婦は何をやっている?

自分たちの子供が危険に
さらされているというのに、
相変わらず呑気に談笑している
のが不思議っでしょうがないと
思ったようで。



下は遥かに遠く、そこに上から
早いスピードで万が一でも、
一気に到達すれば、
もう助かるとは

考えられないくらいの
高さだったから。



これは何かがオカシイ



直に少女の笑い声が聞こえてきて、

幼い子供が発する、あのはしゃぎ声

…だって。


夫婦に幼女の声が聞こえない
はずもないし、周りの人も気にせず
通り過ぎて行ったのが
違和感だらけだったって。



…見えていないのか………
当然聞こえているはずは…


問答無用に高い手すりの上で
バランスを整えながら、
はしゃいでいる少女の姿は異質
だと感じられたそうです。


だが誰も何事となかった
かのように通り過ぎていって。

ベンチで休む人さえ目の前を
通過する明らかに目立つ少女に
目も留めずニコニコと会話している、と。


(おい、ちょっと…)


明らかに変だと違和感を覚えつつも
それを口にしようとして
言い留まった、理由は…


乗っているものが
街路脇の乗り上げならまだしも、
ちょっとこれは、まさかとは思うけれど…




もしかして見てはいけない存在を…



ゾワゾワが一気に背中にきた…



すぐ横を何の気なしに通り過ぎて行く夫婦。
実は夫婦ではなかったかもしれない
ことに気付いたりして。


そして、あれは…

子供ではなかったかもしれない、と。


手すりの上を歩いていく姿をできるだけ
見ないように視線をそらして通りすぎる
ようにしたそうです。


振り返らずに、
とにかく橋を渡りきるまでに
気持ちを落ち着けようと
胸を押さえていたんだけど…


鼓動が早く、胸が高鳴っているのを
感じていたんだって。


気になったのは、確かに非常識なこと。

ただ自分だけがそれに目を向けてしまったこと。

それが何なのかを自分の頭で考えて
途中まで勝手にそれを決め付けていたこと。


それが錯覚で誤魔化せれば
それで済んだかもしれない。

何事もなったかのように何も気付かずに
通り過ぎれば良かったかもしれない。


しかし、ピントを合わせてしまった、

ということ。



こ、これ以上、
か、考えないようにしよう…

と思ったようです。



橋を渡りきろうとしたとき、ふと振り返って
確認してみると…

もう見えるはずない。
と気持ちを落ち着かせようとして…


ほっと息を付こうとして
また振り返り、歩こうとして…




あッ!!!!!!




目の前にさっきの少女が立ってるんだって。


しかもあどけない笑顔で
こちらを見つめて…



声が出ない…ッ…



すると真っ赤な少女がはしゃぎ声を
発して近付いて来たんだって。



うわッ……ぁア!?


びっくらこいて、体勢を崩し、
後ろにのけぞり、
腰をぬかしてしまったみたい。



少女はすぐ横を走り去っていく…



なんだ、なんなんだ…



と思った途端に!!!


すぐ後ろから耳元に


「ダレニモイウナ」


頭の内部で反響する様ないさめる声で。
無垢のままの声色が不気味さをあおって
いたようだったんだって。



それきり、気付いたときに
すぐに振り向いても少女の姿は
なかったそうです。




その話を友人から聞いたのです。


律儀に語ってくれた友人の顔は
いつに無く緊迫したものでした。


今回は様子が変なので、
余裕が無かったのだろうか…
と思いました。


聞いた後で私はそれを聞いたことを
友人に本当に良かったの、と
問いました。


友人は気まずそうな顔をしましたが、
話してくれたことは誠意なのだろう
と思いました。


確かに毎回奇想天外だとは感じましたが
これも新境地の一環なのか…

イレギュラーだ。サプライズだ。


彼の気まぐれな話の一つとしては
興味深いものだったとは思います。

けれど、このことによって
本当に何もなければそれでいいと
思っていたのですが…


彼が心を磨り減らしてこの話を
持ち出してきたのだとしたら…


彼が話し終わった後に、
額に汗を浮かべ、蒼白な顔になっていたのも

何かと、この事のリアリティは高めていた
感じはしました。


本当の話かどうかなんて、
気にしないはずでした。

なのに…



人が実体験を話すときに、
その語り口の甘さや終始混同した内容、
心理状態、気持ちの逸りで、
うまく感情や内容の深みを伝えられない
なんてことは、当たり前にありすぎる事だと
思います。


まして、緊張状態では特に…



それでも友人の話には何かある…

そう思わせる何か…


考えてみれば、話の上手い下手というより
内容がどうなのかを能動的に探ろうとする
意思が有るとき、何を意図しているのか、
といった、言葉のつながりから導ける
人の想いや、実際に触れていない内容…
そんなものがわかるときがある。

話したり、文で伝えたりするとき…
メッセージを相手に伝えるとき、
相手が聞くという状態になっていれば、
言葉遣いが、拙くても確かに伝わるものがある。


友人が、話したことを聞く姿勢が
あった私にはすんなりと、
その事実を知ることと感じることができた
だけのことだったかもしれません。


真剣に聞く態度には、強制的な義務ではなく、
自発的な意思によって、心に届く…

友人を私を聞かせる態度に
してたように思います。


ただ、トリッキーな語り口調は
聞く人を選んだかもしれません。


聞かせるということ自体が
相手の意思の自由を尊重した上で
成り立つものに他ならないでしょう。


友人とは、また何度でも話を
聞きたいと思っていました。


そのことで、友人も快く話すことが
できたでしょうから。





ところが、

話はそれで終わってなかったんです。




また、しばらく友人が
姿をくらましました。


ふらっと何処かに行って、
いつの間にか帰ってくる
人だ、また何食わぬ顔で

戻ってくるさ

あの人はそういう人だ

と楽観的に思ってました。


友人ことをわかったつもりで
そう思うだけでした。


だが思いもよらない形で予想を反して、
友人の行方を知ることになりました。



詳しい事情はよくは知りませんでしたが


友人は、病院で生死をさまよって
いたらしいのです。


それを知ったとき、正直驚きました。


今度はあっちの世界に
ふらふら行ってきたのか!?


という、ふざけた半信半疑の驚きと
今度こそは

冗談でも漫談でも、

ましてや

戯言のレベルでないことを
感じたのです。




…ダレニモイウナ…



友人はタブーを犯したから…?



友人は高いところから
飛び降りて大怪我を負ったのだと
知りました。


落ちての間違いじゃ…?

それとも…


だがどうして?



ただ、今の友人は



…赤が…、赤が……赤い、赤の…



と、うわ言で繰り返し続け、
すでに正気を取り戻す気配は一向にない
様相を呈し、見るも無残なまま、


今も―



一体何があったというのでしょう…




少なくとも…




少なくとも、
今回からもう二度と
友人の口から自慢の話の続きを
聞くことはできなくなって
しまったのです…■










posted by EVILITH at 06:05 | TrackBack(0) | メインコンテンツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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