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2007年06月10日

#11 先輩の住処

大学時代の先輩から久々に連絡があった。

それも、連絡が入ったのは夜だ。


先輩は都心から離れた住宅街のうちの、
道路沿いにあるマンションに

住んでいるそうだ。



たまたま、その日は
仕事も一段落して予定も入って
いなかったので

これからどこかに飲みいこうかと
考え始めたちょうど

そのときのことだった。



急な連絡に驚いたのだが

先輩とは

旧知の仲であり、
色々と世話になった。


そして、

先輩から

今から遊びに来ないか

と誘われた。



大した迷いもなく、
急な誘いだったが
心通わせた人との
久方ぶりのひとときが
訪れたことを静かに喜んだ。


そのときは飲みに行きたい気分で
あったので何を疑うことなかった。




電話越しの先輩の声は
ハツラツとしたもので、


「おーぅ、元気でやってるか?
 家に飲みに来ないか、

 久々に声聞いたらまた会いたくなったよ」



先輩にはお世話になった恩があり、
その付き合いは前向きなものだった。


先輩にはよく誘われて、
気前よくご馳走になったりで
なかなかいい関係だった。

何を疑うことない気安い関係、
酒を酌み交わしては心地よい夜を
共に過ごしたものだ。


冗談も、日常の疲れも

このときばかりは、
いい酒の魚になる。



こんな友人や年齢の近い仲間は
蒼かった若かりし頃おいて、
カタチなくとも…
価値を例えなくても…

その存在の意味の大きさが
宝ともいうべき心の支えになると
誰もが無意識に知っている。


そんな存在は人生において
そう多くないと思っても


大人になってしまう前に
一人くらいはいることだろう。


先輩がそんな人であることは、
自分でもわかっている。

ただ、

少々御無沙汰しすぎただけのことだ…





ところで


呼ばれてから、
先輩宅に行くときに
少し気になることがあった。



先輩の住んでいる部屋は
マンションの5階だ。


そのマンションというのが、
建ってからしばらく経っている
のだろう、

結構な年季が入っているのだ。

壁のシミや汚れは
それだけで荘厳さえ感じさせる。




ただ、ぼろっちぃだけか…




夜の暗闇に佇む、マンション群は
普段の昼間の人通りを考えれば…


異質なものだ。



周囲の人気のなさが
それを余計にあおるのだが、

道路沿いということで
車通りがまばらではあるが
かろうじて静けさを
打ち消してくれるおかげで、

特に意識せずに
建物に入れたはずだった。



なのに…、なぜか…



マンションのロビーに
入ったとたんに閑散として、
一瞬で静寂が訪れた。



深夜というわけでは
ないのに人気はなく、

薄暗い。



ついさっきまで僅かでは
あっても確かに聞こえていた
喧噪ははじめからなかったかように

まったく気配なく、
消え失せていた。



不気味な静けさだけか
場を支配していた。



普段から、

こういった異様な状態に
慣れているとはいえ、

何かを感じずにはいられなった。




ともかく

先輩に会う前に帰るわけにも
いかないので、

上らねばなるまい。




歩き出してから、


靴が無機質に床を叩く音が
異様に響くことに気付いた。




5階に行くには
、条件反射的に

↑のスイッチを押し、

エレベーターを待つ。





そのあい間に、
無音とも思える静寂が
僅かな音すら聞こえはしない。

周囲の音を飲み込んでしまったように
静けさだけが支配する…

この場において


微かに聞こえてくる
音が不意に意識を遮った。






なんだ?




段々と上から近付いてくるようだ。






するとそれが、
声だと気付くのに
少しかかった。




ゆっくりとだが
確かに近付いてくる
ように思えた。





高いキンキン響くような話し声。


ん?


そうか…




幼い子ども特有のはしゃぎ声。







子どもがいるのか?





上から来るということは…




エレベーターに乗って来ているのかな…




するとはっきりと子ども声が
聞き取れるようになってから、
その声が近付くのが
感じられなくなる。





それから、間もなくして
エレベーター到着の音の高く響く、

ゆっくりと扉が静かに開いた。




しかし誰も乗ってはいなった。




じゃあ、

近くの階の子どもが遊んでいるのかな?




エレベータに乗り、上の階に上る。


相変わらず聞こえてくる声に
疑問を持ちながら、

2階、3階上がって行く、
念のため各階でとまって
エレベータのそばを
見渡してみることにした。



しかし誰もいなかった。

1階から上ったときに
少し近付いた気がした声だが

2階に来て確認してからは


ずっと同じ大きさで聞こえる
大きさで聞こえてきていた。





なんだかおかしいな。




夜中に子どもが
はしゃぐ声がずっと、

まったく静かな建物内に

どこからともなく
聞こえてくるだなんて。





場違いな。




にしても、姿を見えないので
どうしたものかと思っていた。




5階に着き、
先輩の部屋まで行くのだが、
その最中にも微かではあるが
遠くに聞こえていた。




「おーう、よく来てくれたなあ!!

 いらっしゃい、いらっしゃい。

 久しぶりだなあ」



酒気帯びた息と晴れやかな気分で
若干のふらつき…


もう、できあがってるみたいだ。


先輩の部屋の前で声をかけると
気前よく、こうして出迎えてくれた。



先輩と再会し、

さっきのことはどうでもいいように、
昔を思い出していきなり
明るく話し始めた。


なんと先輩の宅には、
見慣れた面々が、

もうよろしくやっている。




「遅いから、もうはじまってるぞ」



な−んだ、みんなして
楽しんでいたのかと

呆気にとられはしたものの
その陽気さには

頬をほころばせずにいられなかった。


開いている席に自動的に座らされた。


昔はよくこうして、
夜通し愉快なときを過ごしたものだ。


もう言葉裏に昔を持ち出してしまうほど、
歳を重ねてしまったものかと

酒をなめてから少しだけ
感傷にひたってしまうのも



つかの間、




雀卓を囲って…



さあはじまった。





そのときになって、

ふとここへ来るときのことを
思い出したので、

先輩に何気なしに聞いてみた。



「先輩、あのーぅ…

 この近くで小さい子どもって
 住んでいますかね?」



聞いてみておかしな質問をしたと
思っていたが、

先輩は少し考えてから



「急に、何を聞くか?

 まあ、親子連れなら
 住んどるかもしれんな」


………



「なんかあったんか?」



「いや、ここに来る途中で
 子どもの声が聞こえたもので」


「ああ、あれか」


「え?」


「たまにな、聞こえてくるんよ」


「じゃあ、近くに子どもがやっぱり?」



「いやなに、よくは知らん。

 まあ気にするな、

 しばらくすれば
 気にならなくなったしな」


「はぁ…そういうものですか」


「それより、余所見してていいのか?」


「おっと」



そのときは忙しくなってしまい、
それきり聞くことはなかった。



先輩とは、またやろうと
苦笑いまじり別れを告げる。

なんやかんやあったが
みな元気そうだった。



帰りにはあの声は
もう聞こえはしなかった。




それからしばらくして、

先輩とは連絡をかわすことなく
1ヶ月ほど経ったある日のことだった。


突然、先輩から連絡が入る。



何事かと思って先輩の話を聞くと、


「お前か、

 あのちょっとな、

 あんときな」



なんだか、


切羽詰ったような声だったので
息づかいの荒さを感じた。


「はい、どうかしたんですか」


「いやな、前にお前が言ってた…」



普段の余裕めいた悠長さは
事欠いた雰囲気で話しはじめた。


すると、


電話越しに、
例のはしゃぐ声が

少しずつ

大きくなって聞こえてくる。



「先輩、今


 部屋に誰かいるんですか?」


「俺しか居らんよ」



………


「いや、でも、

 あれは…」


「先輩…?」


「ベランダが騒がしいんだ」



子どもの笑い声が複数、
聞こえてくるように思えてきた。


段々と部屋中に広がっていくように
バックで聞こえる。

部屋中に反響して原点が
つかめないような、
収束しては拡散する、
デタラメな通信状況に
ストレスがたまりまくった。


よく街中でガヤガヤと後ろで

電車や自動車の通過音や
雑踏の雑音のように
肝心な肉声すら妨げていく…


先輩の声がチリヂリに
聞こえ始めた。



「…あれ…、

 わ……なん…お……ひ…っ…」



何を言ってるかさっぱりわからない。



「先輩!?

 大丈夫ですか?」


「……ああーー、
 
 …なん…おわ…す…

 はいッ…だ……やめ…」




これはもう、ヤバい。


そう、これまで培ってきた
感覚が否応なく通告してくる。


そして急に子どものやかましさが

消えたかと思ったら


先輩の声が鮮明に




「ああっ!!

 入ってきちゃったよ…!!!」



「あ…やめてくれ、たすけて」




ゴトッ…



「先輩、どうしたんですか?

 先輩!?」




返事はない…





すると、

子どもの声がすぐそばで
聞こえてきた。



(あー、このひと…

 …しんでるよ?)



(あ!ほんとだ、キャハハ)



子どものはしゃぐ笑い声が
部屋中に響きわたった。




ブツッ…





ツー




ッー






通話は途絶える…







背筋が一気にぞーっとなった。




先輩にいったい何があったんだ?




すぐに、リダイヤル。



電源が切られているか、圏外…


機械的なガイダンス音声に、

このときばかりは
やるせなさを感じて焦る。




何回か、繰り返すが同じ結果。




何かの、

間違え電話か、イタズラか…


しかし、

あのとき感じた感覚は
ただごとではない。



あの日、


先輩宅に集った者達に
確認を取ってみるが、


………


結局大した返答は
帰ってこなかった。


あの電話で先輩が何かに
巻き込まれたのかどうかという、

ことを知ることが出来たのは
自分がはじめだったようだ。



一様に、そうなのか!!


と電話越しに驚きの声を発する者達は、
あのマンションに居ても

子どもの声は聞いたそぶりは
一向に見せなった。



聞こえていたのは、
先輩と自分だけだったというのか。




その後の先輩の足取りつかめなかった。





なぜなら…



先輩宅にとにかく行ってみたものの
留守だったのだ。



念のためというか、
明らかに自宅から通話していた感が
あったので部屋の中も確認させて
もらえるように

マンションの管理会社に
何とかして


もらったのだが…



先輩の姿はそこにはなかった。




後日、

確認してわかったことがある。




先輩が最期に自分に連絡してきた時には


先輩は山形の出張に行っていることに
なっていたというのだ。



これは、どうしたものか…




足跡はそれきりだ。


今なお、先輩の行方は知れない。



先輩はいったい…




先輩のことだ、またいつかのように
急に電話かけてきて遊びに来ないかと
言い出しそうな日が来そうで仕方ない。



でも、あれが冗談であるとは
どうしても思えない。



ただ、気がかりなのは、
自分に電話してきて
何を話そうとしていたのか…



それが先輩の行方を示しているのなら…




鳴らない電話を待つしか、
もうないのだろうか…







あの先輩の住んでいた
恐ろしく静かなマンションに

自分が最初に訪れたとき、
どこからともなしに



姿なき幼い子どもの声がして、
それが妙に耳障りに



無邪気に、無慈悲にはしゃいでいる
ように聞こえてきたのだった。



あのよる感じた静寂を破る
異質な場違いな…はしゃぎ声は今も耳に残る…


あれは、子ども声だったのか…


もしかしたら、
先輩には子どもの声には
聞こえてなったんじゃないか…


だったら、いったい…■










posted by EVILITH at 18:47 | TrackBack(0) | メインコンテンツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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