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2007年06月17日

#13 黒サンタ


夢と期待に、心を踊らせ、

大切な人と過ごす時間…
大切な人に伝える想い、言葉

幸福を与え、授かる、
心遣い…、思いやり

待ち望んだ祝福の夜が静かに訪れる…



街が一際、綺麗な幻影に彩られ、
明るさにあふれ心弾ませる
ミュージックがどこからともなく流れ、
思わず口ずさんでしまうような
晴れかな気分にさせていく。


淡い灯りは幸せを望むものを

優しくあたたかく包みこんでいく。


こうした活気は、暗く冷たい夜を
和やかで温もりあるものに変えて


不思議な力を与え…


幸福をもたらしてくれる。


期待で小さな胸を
ワクワクさせるような…

大切な人と過ごすときを
待ち望み期待させるような…





記念日とイベント




そのときを有意義なものに
しようとする健気な心意気が

気分も雰囲気も高揚させ、

心満たしていってくれる。







ただ、待っている。



喜ばしい、そのひとときを。







……………



今年もメアリーがハツラツとしながら

とある話を繰り出してきた。



「あのさ、ねぇケイトぉ

 イヴの日は予定はあるの?」


「え?あ…、わ、私は、特には…」


「ねえねえ、じゃあさ
 よかったらー

 一緒にパーティしましょぉよ?」



去年もケイトは誘われた。


でも、

その気になれなくて断っていた。

あからさまにつまんなそうな顔を
したメアリーに対して
断ったことがばつが悪くて、

あのときは

その場から逃げ出す様に
その場を後にしていた。

決してメアリーを
毛嫌いしていたわけではなく
ケイト自身の気分の問題だった。


誰に対してもこの時期だけは
距離をとって避けていた…


誘われても断ることがある。
ただ、その理由を言わずに去っていく
ケイトは誤解を受けても
仕方ない対応しかしてなかった。

普段のケイトは大人しいといっても
人並みに友人としゃべったり、
遊んだりしているため、
特別すぎるほど浮いたキャラという
わけでもなかった。

ごくごく普通の歳相応の女性…


メアリーは、
そんなケイトを疑うことなく、
親交を深めようと熱心に
よく話しかけていた。


メアリーはとても人懐こく
幼い風貌と仕種、それと
おしゃべり好きで、
可愛いもの好き…

これまた、どこにでもいそうな
典型的なタイプではあるが、
明るい性格は異性からの
印章もそれなりに明るそうだ…


人に好かれ易そうな、裏表ない無垢な性質

そう、人に良く思われる立ち振る舞いと表情


クラスの人気者というほど
目立ってはいないが、

敵を作らない様な交友関係に
勤しんでいる。


ごくごくありふれた二人では
あるものの、

その性格のはっきりと違えていた。

メアリーはおしゃべり好きだけど、
自分の話をよく聞いてくれる
話し易い人物を求めていて、
心のどこかでは、
おしとやかな大人しい存在に
憧れていて…それをケイトに
当てはめていたのかもしれない。


メアリーがケイトを誘うのは
こうした込み入ったことを
思考しての行いではなく…

衝動、というものであろう。


メアリーは今年こそ、
ケイトとパーティをして
共に楽しい時間を過ごしたかった。



人間的に好きになれそうな人物、
自分にとって友だちにし易そうな人物、
自分に持っていない魅力を有している人物、

友人するなら、そんなことを
無意識に感じて、数ある出会いの中から
選びとっているのかもしれない。



パーティを予定している日というのは

メアリーにとって、特別な日だ。



ケイトがなぜ断っているのか、
理由はわからなかったけど
何か事情があってのことならと思い、

無理には聞きだそうとしなったし

だから、去年は誘い出せなかった。


なにも、ホームパーティなら、
近しい友人の誕生日にかこつけて
その度に、お祝いとかやってきた
わけだから…

その席にケイトを誘い出せたことは
もうできているんだから…


異様にこだわらなくてもいいんだけど


でもね…


でも、仲のいいケイトとは、
もっと親しみたい。


仲のいいなんてメアリーだけが
思っている一方通行で

ケイトはそうじゃないんだったら
なんかヤダ!すっごいヤダよッ


でも、ワカンナイ…


ケイトがメアリーのこと
どう思っているのか…とか

メアリーはやっぱ、いい友だちって
思って欲しい。


だからこそね、

いっぱい楽しくしなくっちゃ


いっぱい


いっぱい





もっと


もっと



いい感じ、なっていきたいから


どうせなら、絶対!

明るく考えた方が楽しいもんね。


ケイトが前よりよく笑ってくれる
ようになってくれたんだから…ね



そう思うメアリーは、
前にも増して今年は攻めの態勢だ。




「でも、あたしは…」


引っ込み思案なケイトは
メアリーの申し出に

今年もあまり乗り気ではない様子。


「私ね、

 ケイトと一緒にパーティしたくて

 色々と考えてるんだよー」



「んーー」


直球勝負のメアリーの言葉は
ややこしさが省かれている分、
時として本心に訴えかける力がある。

でもそれは、無邪気なおねだりのような
わがままで無遠慮な言い分だったりも
するわけで…



「あとね、ロアンも誘うから、ね?」



「そ、そうなんだ…、ってロアンもかぁ」




「え?、ちょっと悩んだ?今悩んだよね?

 ちょっとは、気が変わったでしょ?

 ね、ちょっとだけ、ねえ?」



「…別に」



「もーぅ

 だってロアンと結構、
 いい感じなのに

 ちょっとだけならさ、
 いーじゃん、ねぇ?」



「そ、それは、席近いし、
 よく一緒にメアリーとか
 みんなで遊びに行くから、
 いい友だちなだけ…だし、

 だから、その

 別に、そんなんじゃ…
 ないし」



「…ふーん、そうかなーぁ」


「なぁに、その、あしらい方?

 単にメアリーが言わせた
 だけじゃないの?

 だから答えたのに…」




「これからも友だちのままでいーのかなぁ?」



「パーティには関係ないでしょぉっ

 も、もう、からかわないでよ」


あからさまに表情を強張らせては
いつも涼しげな顔が微妙な顔つきで
眼をうろつかせるケイトは

その手の話には、滅法免疫がなく、
挙句、子どもっぽいメアリーにまで
つっつかれる始末に、戸惑い…
平常心でいられなくなってしまった。



「今回だって普通に遊びに
 行くようなものなのに

 すッごおく、 嫌がってるみたいだから
 どうしてなのかなぁ」



「それは…さ、私にも都合が…」


メアリーのつぶらな瞳から目をそらす。



「なんかさ、メアリーはケイトが
 喜んでくれると思ったんだよね。

 でもさぁ、ただ押し付けちゃってる
 みたいだったかな…

 ごめんねー、ケイトぉ
 ちょっと、からかってたりして」


「別にいいから」


少し揺らいだ気持ちを努めて治めようとした。




「あのさ、ケイト」



「なに?」


「…なんだかこの時期になると
 気分が優れないみたいだけど

 何かワケでもあるの?」



「メアリーが心配してくれる
 ほどのことじゃないよ」



「そうなのかなぁ」



「そう。だから」



「ケイトには元気になって、ほしいし。
 それに私たち、友だちでしょ。

 ずうずうしいかもしれないけど、
 何かしてあげられないかなって思って」


メアリーの瞳が映し出す小さな光が揺れていた。



「…わかった」


「え…」



あんまり、メアリーがせがむから、
ちょっとそんなに自分のことを思ってて
くれたのかと、単純にうれしくなった。


これ以上、

話を長引かせると
メアリーが泣き出しそうだ。

明るい性格だが感受性の優れた
メアリーは小説を読んでいても
よく目頭を熱くしている。

それくらい気持ちを目の前に
必死に向けられる人。

思い込みが激しい分、
空回りも多いみたいだけど。

でも相手のことを想って
色々と行動したり、

よく話しかけて根暗な性格の自分を
励ましてくれたりて、

あたしにとっても大切な友だちだと思う。


だからこれ以上、
メアリーには
迷惑かけることも、
心配させたくもなかった。


あたしがが自分の都合を
我慢すればいいだけだから。



だから、

メアリーの熱意にほだされて思わず、


わかった


なんて言ってしまった。

さっきまでこだわっていたことは
じゃあ、なんなの…?

思い出したくもない
過去に怯えて…


メアリーの明るさに触れていれば

いつかは―


私は過去を払拭できるのかな…




「わかったてば」


「えぇー、何が?」


「だから、わかったって言ってるでしょ」


「ええっと、も、もしかして、

 それってOKってことだよね?」


「そうよ、だから、ね?」


「え、なぁに?
 他に困ったことでもあるの」


「そうじゃなくって」


「うん」


「あ、あの…こんなあたしでも、

 行ってもいいかなって?

 あたしって、こんなだし」




「もちろんだよーー、

 ずっとそれ、気にしてたの?

 ケイトはそんな几帳面じゃなくていいだよ

 メアリーとケイトは友だちでしょ、
 だから誘ったんだし」


「…そう
 そんなにはっきり言ってくれるの…」


「そうだよー」


直情的過ぎる好意に、
思わず気恥ずかしくなる。

わかり易い性格…

でも、こんなにも想いを
しっかり表現してくれる存在は
複雑に悩まされる日々に
疲れた心をも容易く突き抜けて
浸透していってしまう。

それはときに、

自らの内に滞る煩わしさから、
すべてを見透かされるようで
惨めな気分にさらされることがある…

それでも、素直で純粋な気持ちに
触れたとき、

心が洗われように澄んでいく感触。

優しい言葉、
好意を抱いてくれる人…

心からの気遣い、

心配、

思い遣り


求めても得られないもの

はじめから備えていたもの


不思議な巡り合わせが人と人を
つないで、そして心を通わせる


理屈や理由を考えなくたって
感じてしまい、

思わず動いてしまうときがある。


ただ、心のままに…



「あーよかったぁ

 断られても、
 かなり強引だったからさー

 ケイトに嫌われてしまったら
 どうしようかなって」


「あたしがメアリーを
 嫌ったりなんかしないよ…」



「うんっ」



メアリーはケイトに了承を得ることに
躍起になっていたことでウキウキ、
いつもに増して、

ふわふわしたような浮ついた表情で
何も言わずに微笑んでくる…

理由がわからないと
なんか危ない感じが
しなくもないけど…

そうゆうことだったの、
たまに、妙に静まったかと思ったら
思い出し笑いしてたりして…


だた、なんとなくね


なんて言ってもったいぶって
理由を教えてくれない。

あれほど誰かとしゃべっていないと
何もすることがなくなって
死んでしまいそう雰囲気を
いつもいつも纏っているのに。

この娘を知らずにやり過ごすだけなら

ただ、

あやしい小娘と思って済ませられる
かもしれないけど…

このときばかりは、
メアリーの笑顔がまぶしくて
直視し続けるまでには
まだまだ馴染めてはなかった。

あまりにもこの場に留まりすぎると
メアリーの色に染まってしまう。

メアリーの放つ、この雰囲気が
飾り気なく素朴なケイトにとって
たまらなく恥ずかしいものに
思えてしまった…

大勢の人前に出るときの
不慣れさと似ていて、
毛嫌いしているわけではなく…、
単に苦手で戸惑っているだけ


「じゃあもう、いくね」


そそくさと、その場を立ち去った。

メアリーは景気よく
ケイトが見えなくなるまで

手を風になびく旗のように
ひらひらし続けていた。



それから少しして

講義の合間などに時間を過ごせる
庭内に設けられた広場の一角の
ベンチにロアンが座っていた。

ゆったりとした広さで
ここからは、周囲を見渡せる。

建物内部の閉塞感を紛らす開放感がある。


晴れた日にこの居場所に訪れる学生も
少なくはない。


いつものように、ケイトはここに訪れ、
陽の光を感じ、日差しに掌をかざした。

寒空の下、冷たい風が頬をかすめる。

今日は割と、暖かい日だ。


最近は季節的に寒くなってきている。


ケイトがベンチの近くを通りかかると



「ケイト」


「あ、ロアン」


「あのさ、メアリーがさ」


「…うん」


「ケイトがパーティ出るって喜んでたよ」


「…うん」



「ケイト…?」


「…」




「どうしたの?

 ごめん、
 
 もしかして今、急いでた?」



「謝らないで。

 あなたのせいじゃないから」


「ごめん」


「あ、また」


「口癖みたいだよ…」


「…、あはは、ロアン、変なの」


「僕のことじゃなくって
 ケイトのことなのに。

 …あれ、

 べ、別にケイトが変ってわけじゃなくて」



ロアンはクラスであまり目立たないけど、
席が近いから色々話するうちに
メアリーたちと一緒につるんで
遊ぶようになった友だちで、

あたしとは 口下手同士、
まあなにかとトボケタ会話で
楽しんでいる。


メアリーが自分を誘ったときに
言ってたことが頭から

離れなかったから
無意識に考えてしまって

ちょっと意識してたのかも…


意識したことなかったのに…




「いいよ…、

 あたしが変なのは

 今に始まったことじゃないし」


「そんなことないよ!

 ケイトは
 内面的に奥床しいというか、

 なんというか、その

 とても魅力的だよ…」



ロアンが聞き慣れない言葉を
口走ったことに驚いた。

褒め言葉かな…

言いだしっぺのロアンは言ったはいいが
落ち着きなさそうにオロオロやっている。


「……、なにそれ、

 そんなこと普通、いきなり言わないよ?

 でも、
 
 はじめっから、変なんだから普通とか
 言っても意味ないよね…

 あたしってなんにも取り柄ないでしょ…
 そう思っていたから、魅了的だなんて

 それが褒め言葉だったなら…



 ありがと」


目をあわさず首を背けて広場の向こうを
見て自然に流すように口にした。

ごく自然に振舞うように努めていた。


遠くで木陰が揺れ、木漏れ日が踊っていた。

今の時期には珍しい日和かもしれない。


……………



ロアンが黙ってしまった。



「あの、ロアンもパーティ行くの?」


「…っッえーっと、行くよ。

 楽しみにしてるッ」



「そっか、でも、

 あたしはどうしていいか

 まだ、わかんないの」



「そ、それは…?」


「あたしもう行くね。じゃあね」


「あ…」



まだ何か言いたそうだったロアンを
残してその場を立ち去った。




……………




後日




広場の木陰で、
ほとんど誰もいない
広場の情景を眺めながら、

ぼーっと突っ立っていたケイトの肩を

メアリーがちょんちょんと突っついた。



「ケイトー」


「ごきげんよう、メアリー、

 相変わらず元気ね」


「なに、他人事みたいに。

 イヴは明日なんだよ?」



「それもそうね…」


「まさか、忘れてないよね?」


「…うん、たぶん」



「やっぱ、気が変わったとか、

 ドタキャンとか…」


「…とか」


「絶対、ナシだかんね」



「季節が季節だから、風邪とか…」




………




「却下ーーでも、

 そのときは、看病行ったげるからぁ」



「…」



目が本気だ。



「悪かった、

 とりあえず落ち着いて」


「…ああ、ごめんね、
 ちょっと、まじになちゃったかな。

 それでえーと、何だっけ?」


いつも、まじにマジメにボケてるじゃないの…



「あたしに聞かれても…」


「もうっケイトがーー…」


「…」



メアリーは眉間に指をやって、
険しい表情で記憶を辿り始めた。

もしかしたら怒らせたら怖いキャラ?

意外とあっけらかんとしていそうでも


ストレスを抱えやすいのかも…






……



………ッ!!!


「あ!っと、そうだった、

 アリスもね、来るみたい」


「アリスも?」


「うん。

 あとね、

 ビリーは渋ってたよ」



「『もう子どもじゃねーんだから』

 だってさ。

 恥ずかしがって来ないんだよ、

 もうっ、子どもなんだからー」


あたしのときは子どもだとは
言われないだろうけど、
あたしが絶対行かないと
断りきれば

メアリーが子どものように
しくしくなるかもしれない


「…ぅクっッ」


「アハハ、ケイトもそう思うでしょぉ?」


「…くっすす」


少しこらえた。



「…それでね、じゃあさ、

 今日は買い物行こ!」


「あ、待ってメアリー」


もう待ちかねたように急ぎ足で
すばしっこく小走りで先を急ぐ小娘。


街は、待ち焦がれた日が
いよいよ迫る勢いで
喧噪を増して活気付いてきていた。


行き交う人の流れも、このときばかりは
演出のように彩られて、

足取りも軽くにぎわいそのものだ。


慌しさ中に芽吹いた

無数の華やかさを見てとれた。



メアリーがうれしそうに
繁華街を物色し始めた。


あたしはそれに付き合うのだけど、

メアリーがせわしないので
追いかけるのに一苦労だったけど
愉快だった。

目を離すとどこかに行ってしまって
呆気にとられて、もう帰ろうかなと
悪戯にも思おうものなら後ろから
手を取られて、息を切らした
メアリーが物言わすじっと見つめてくる。

妙に真剣なので、
もう黙って付いてくことにした。









すべての人に等しき夜が訪れる。


待ちわびた日に、訪れる福音を信じて。



………



でも、あたしは。








街中で、
ビリーが赤と白の色の派手な格好をして、

決まり文句を連呼して、
ケーキを売りさばいていた。



メアリーに発見されたことが
バツが悪かったらしい
両の掌を合わせて額を低くする。


試食用のケーキを放出して
メアリーの牽制を沈静化する。


「ビリーがホントはパーティに

 来たかったんだって」


何事もなったかのように
舞い戻ってくるメアリー
僅かに舌を覗かせて唇の周辺の
残された魅惑の甘さを
余すことなくていねいに動かし、
舐めとっている。



「ふーーん」



もう、この人は。

と思いつつ、
首を背けて目線をそらした。


そのときにちょうど

街に情景に目をやると、



不思議だ。


チラチラと電気で光る人工の輝きに
どうして心躍らせることなるのだろう。


儚く有限な時間しか飾られることなく
誰の目にも留められないただの
オブジェでしかないのに…
見知らぬ他人が人の見ぬ間に設置して、
維持費は意外とかかる代物なのに…


事情さえ考えることなければ、
すべてが他力本願で、
自分が傍観者であることで
得られる幻影に



心惹かれるというの…



街に赴く理由がこの幻想を求めて
朧気で曖昧なぼやけた、
形なき感触のない…

意識の裏側に滲む光の饗宴

それを目にした人の心の働きが
映し出す、想像を増幅させた
目の錯覚によるものでしかないのに。


それは、巧妙にだまされてあざむかれ…
だまされていることにも気付けないほど

見事なまでに作り上げられ、
そしてそれを見慣れすぎてもう違和感なく…



幻惑的な…



そうこうしているうちに、
時間は泡沫のように過ぎ…





イヴか…




思う人によって如何様にも
色彩を変えるこの日に―






かつて、子ども心に抱いた
自由で虚ろな夢は、


いつしか、恒例の与える
リアルで曖昧な夢を


背負うことによって紡がれる。





……………




別にいつもと変わらない新しい日を迎え…




メアリーと約束した時間は夕方だけど、
もう昼から色々行っていた。

昨日のメアリーに
連れ出されたのこういうことだった。
買い物から、飾りつけなどの
パーティの準備に至る工程、

それらを総括して順次行っていく
作業そのものを楽しんでいるところがある。


細かいことはメアリー自身が事を言いだした
あのときから計画は進めていたようだから

手伝うことなんて、高が知れている。


メアリーを手伝うだけで
別にお祝いに浮かれている
わけじゃないと納得しよとしていた。


ただ、

メアリーの表情は晴れやかなものだった。

あたしはそれだけでよかったと思う。



たとえ


今日という日がなかったとしても。


昼から始めていたけど、
少し肌寒くなってきた。
防寒対策は行っていたけど…
それも想像の範疇でしかしてない。
ここ最近は穏やかな気候が
続いていたから…






天候がなにやら思わしくない。


不意に強く勢い付いた風が吹き始めて、
さすがに過酷な季節を思い知らせる。


ツリーを飾る指が、かじかんで振るえ
痛いくらい凍てついた冷気にさらされる。


急激に当たり前に感じていた


ぬくもりが失われていく。




今日という日は。


不意によぎった僅かな不安は
忘れかけていたケイトの暗い影を
再び呼び覚ますことになってしまう。

この日に限って、どうして…




この日に限っての特別は

何も快いものだけでなかったようだ。



早く家の入った方がいい。



息が白く、

周囲との温度の違いを主張する。




「ケイト、大丈夫?」


「平気」


「手袋くらいした方がよかったかも」


「もう、遅いけどね」




「早くあっためよう?」



暖炉の火は冷え切った身体を

心をも溶かすぬくもりを
もって癒し始める。

冷えきった身体には燃え盛る炎が
ときになによりいとおしい。


飾り付けられ部屋を見ると
メアリーらしさに彩られ、
その色に染まった世界観を
うかがわせた。

薄明かりの証明と
暖炉からこぼれ出る燃えような光は
ゆらゆらと、ゆらめき…

この部屋のあらゆるオブジェと
作る照影をたゆたせていた。


薄暗い闇の中で灯った白熱から
発せられる光とあたたかさは
意図して作り出された空間内において
ごく自然で心を優しく包み込むような
そんな雰囲気を感じさせて心地よく思えた。



少しすると、

指先に感覚が戻ってきた。

何度か僅かに曲がった指を
握り繰り返してみた。

改めてコレが自分の指であることを
再認識することになった。




メアリーがケイトの横にそっと座り、
肩を寄せてきた。

「…なんかさ、こういう風に
 ちょっと待つ時間て
 いい気がしない?」

「…ふふ」

返事はしなかったが、メアリーが
妙に落ち着いているので首を傾けて
二人しか居ない部屋で
共に小さくなっていた。


ほんの少しの間、静かな時間が流れた。


メアリーは暖炉の爆ぜる火の粉を
目を細めて見つめていた。




……………



静寂を断ち切るように、


突然


ロアンが、息を切らして登場した。



「ロアンッ!!!いらっしゃーい」


「メアリー、呼んでくれて

 ありがとーう」



「ロアン」


「やあ」



見慣れた顔に安堵した。
不思議とさきほどまでの




三人で暖炉の前で、

静かに煌々と爆ぜる火の粉を瞳に灯しながら、



無口に何かを待っていた。




「急に冷えてきたね」


「ええ、ちょっと驚いちゃったよ」


「…」


「…」





……………




「ああ、そうだッ!!!」


「どうしたの?急に」


「今からケーキ買ってくる」


「でも今からじゃあ
 売ってないかも、
 それに寒いし」


「僕はケーキなくても大丈夫さ」


「ないと食べたくてショーガナイヤ。
 ちょっと行って来るよ。

 パーティまで、まだまだ時間あるし
 ホント、すぐ行って帰ってくるだけだし」


ロアンを無視する。




「ケイト!」


「え?なに」


「じゃあ後、よろしく〜」


なぜか、メアリー片目をしばたかせる。



「はぁッ?」


メアリーが颯爽と扉の向こうに
消えてしまった。



不思議な気分だった。


友だちの家とはいえ、
残されるという寂しさと動揺。



でも今は、ロアンが居る。


居るから何?



ロアンは話しやすいが
まだお互いに

わからないことは結構ある。



お互い口下手だから、込み入った話を
それほど互いの会話から引き出せない。



いや、むしろ、そうしないことが

かりそめであっても居心地よかった。


自分の過去にこだわる必要なく、
今の自分で居られる。


だから、話を繰り出せない自分に
気安く話してくれたメアリーに

心開ける仲になれたのだと思う。


でも、いつまでも受身で居たら
相手に失礼かもしれない。

常に受身であり続けることは、
対等とはいえないかもしれないから。



「大丈夫?」


黙り込んで、うつむく自分を
心配してくれたのだろう。


ロアンがコーヒーを指し出した。


いつの間にとも思ったが
何か話しかけるきっかけを
相手から振ってもらえるのは
気が楽だ…

でも、

いつもこうだと受身な人間でしかなく
いつまで経っても、
自分を解ってくれる存在なんて

そんな風に都合いい人が…

現れることはほとんどないだろう。


それでも、あたしは…

恵まれて、いるのかな



普段、コーヒーより紅茶派だが、
今はこの味を欲している自分がいた。



「ありがとう」


「メアリーの家のだけどね」


けれど

今それを持ってきたのはロアンだ。




「あたたかい」



この二言は工夫せずに自然に発した言葉…



「メアリーとは…」


「ん…」



「ここに来てから、仲いいね」



「うん…、いつもよくしてもらってる」


「なんか変な、聞き方だったかな…」


ロアンは軽く頭を抱えたが
ケイトには気になるものではなかった。



「メアリーって前はどうだったの?」


「そうだな…

 ケイトがこっちに来る前はそんなには
 目立ってはいなかったかな」


「そ、なんだ」


「若干イジメラレテタ感あったかな」



「信じられない」


「今もときどき、

 よく泣くときあると思うけど
 たぶん名残だと思う」


「…そう、なの」


「僕には、深い事情まではわからないから
 軽率かもしれないけれど、

 メアリーがパーティにケイトを
 誘いたがってるのは

 何かそういう、メアリーの思い入れが
 あるんじゃないか、とか…」


「…」





「ふーーっ」


コヒーは乾いたのどをいとも簡単に流れていく。
メアリーの厚意にに甘えること、
今日という日は、

それで、

それだけで、十分だ…



「今日は他の人は来ないのかな」


「アリスがね、来るはずだったけど、
 今日はボーフレンドと遊びに行ったって
 メアリーが言ってた」


「そーか」


「…」


少し気まずくなった。
ロアンはケイトのことが
気になって仕方なかったが、

例によって不器用なロアンには

状況を好転させるような
うまい言葉は紡げなかった。







……




………





「今のままじゃいけないと思うけど」


「ケイト?」



「よくしてもらっているのに
 恩返しできてないし」


「メアリーはケイトが来てくれただけで、

 それだけで…」



「そう、かもね」



的を射たのかどうなのか、
うつむき加減のケイトの表情は

変わってはいなかった。


何も話さなければ

このまま永遠に続きそうな
沈黙がやってくる…ような

気さえしてくる。


ただ、暖炉からこぼれる明かりに
照らし出されたケイトの横顔は

無機質であっても、

なぜか、



美しいと感じた。



この部屋に溶け込むように
微動だにせず…

ずっとそこに在った、
ビスクドールのようで、

でも、

この空間とはどこか異質な…

浮きだった存在に感じてならなかった。



こんな感情は気狂いだろうか。

それとも僕は。






……………






「ケイト、

 どうして今までこの時期の…」



「それは…」



唐突にそれだけじゃ。
他人からしたら、
意味不明な会話だ。


しばらくまた、


ケイトがうつむいて何も語らなくなった。



空になったカップを
むなしく口につける。


もちろんのどを潤す液体は


もう一滴すら残ってない。




触れてはいけないガラス細工に
不用意に、僕は…




「ごめん」


条件反射的に口にして、
自分の過ちを認めようとした。



「いいえ」


「え?」



「どうしようか考えていたの。

 今まで誰にも話したこと
 なかったから」



「……ゴクッ…うん」



枯れたのどに唾液を流す。

望まぬ違和感を味わう。


ケイトにはケイトのペース
というものがあったのか。


どうしても
聞いておかなければ
ならないような

ケイトの心のわだかまりが
そこにあるのではと、

そういう雰囲気を感じとった。


普段不器用な自分の感覚を
総動員してでも

受け入れられる内容かどうかわからない。


ただ聞いてあげることしか…

今の自分には


それしかできない。




「ホントは思い出したくない。
 忘れることが出来たらと

 どれだけ願ったか、

 でも向き合わなければ、

 あたしは」



「ケイト…辛かったら」




「話してしまいたい気持ちだけど、
 無用な心配も迷惑もかけたくないの。

 でもロアン、

 もう話してもいいよね?」


誰にも話せない秘密を、明かすことで
少しは気が楽になるのだろうか…

聞いてあげるだけならできるという…

力になってあげたいって近寄って来る、
無知で気安く快い友に話すことで、

それが互いの関係をつなげるものに
なるのだろうか…


このせいで、あたしは友を失うことに
なるのかもしれない…

独りは慣れている、

でも、せっかく優しく接してくれる人が
気分を害し、離れていくのを見るのは
さすがに今の自分でも痛ましいものだ。

自分が大切な人に嫌われ、遠ざけられる瞬間は
悲しすぎるから…

今まで、そうならないようにと思ってきた。


それでも、今ならば…


「うん、いいよ。
 僕でよければ聞くよ。

 いくらでも」


「ロアン、ありがと…」



ケイトは自身の肩を抱えてうずくまった。

表情は何かを恐れて
おびえる仔猫のように
か弱く震えて、

先ほどまでの静けさに溶け込んでいた
無表情は失われた。


ケイトの手にあるカップの飲みかけの液体は
ゆらゆらと僅かな波紋を描くだけだった。


若干、頬に汗をにじませていたが、

決意してたのか、口を開く頃には、
気丈な顔立ちに戻っていた。


ケイトの決意にロアンは正面から
向き合えるのか不安だった。


でもケイトの気持ちに応えたい一心だった。



「あの夜も吹雪いてとても寒くて冷たかった」


ゆっくりと、そして
その一部始終を確認するように

話し始めるケイトの双眸は
空虚にもかげり見せた。



「あたしは母と、父の帰りを待っていたの。
 いつ帰ってきてもいいように。

 料理だってテーブルにいっぱいに並べてた。


 あたしの大好きなご馳走ばかりだった。



 そう、その日は今日と同じイヴだっだ。


 でもね、いくら待っても、
 父は帰っては来なかった。


 あたしは疲れて寝てしまったみたい。


 でも朝になっても、父の姿はなかった。


 そしてまた次の日も。

 また次の日も。
 

 次の週にも、

 次の月にも…



 帰ってきてはくれなかったの。


 信じられなった。

 父は約束を破る人ではなかったし、

 仕事先から帰路についたところ
 まではわかってたのに

 誰もその後、父を見た人は
 いなかったみたいなの。

 あたしははじめは声が枯れるまで
 泣いてやろうかと思ったけど、

 悔しく悔しくてできなった。

 あの夜、パーティーが行われるなかった、

 楽しみしていたときが訪れないって
 すごく胸が痛くて、空虚で…


 その日から、もう幸せな家族の生活は

 二度とやってこなかった。


 あたしはどんなプレゼントも

 いらないから、


 そのかわり父が帰ってきてくれること
 だけをひたすら願ったの。


 その願いがかなう日は
 来ることはなかった…


 母は心配になって知り合いに電話したり、
 何かの事件にあったんじゃないかって
 警察に行ったりしたけど、

 行き先はわからず終い、
 
 ずっと帰ってこなくて


 父は行方不明だった。

 
 そうすぐには行方不明にも、
 ならないし事件でもない限り、
 協力はしてもらえない…


 世間の風当たりは厳しかった。


 父が母とあたしを捨てて、
 どこかに行ってしまったと

 そう、噂されたりした。


 あたしは…

 優しくてたくましい父が好きだったの。


 だから、きっと帰ってきてくれると


 信じていた。




 でもその幼くて気持ちを込めた
 期待は長くは続かなった。


 ずっと待っていたのに。

 父の帰る日を。



 その後、


 冬から春に季節が
 移り変わっていくけど

 父は帰ってこなかった。



 ………



 だけどね。


 妙なことが起きたの。


 家の中が変なニオイが
 するようになった。


 どこからか、

 それが何か肉が腐ったような
 強烈なツンと鼻をつくような
 激しい悪臭がしてきたの。


 それがもう、

 気持ち悪くて、キモチワルクテ、
 もう吐きそうになるくらい。


 はじめはネズミか、猫か
 家に入り込んだ動物が死んで

 放っておかれて
 腐ったんじゃないかって

 思ってた。



 防臭剤や消臭剤、芳香剤じゃ

 その悪臭が取れなくて


 そんな家では食事できないから
 外食とかしたり、

 なるべく家から離れて過ごすように

 なんとか耐えていたんだけど。


 日増しにそのニオイが
 激しくなるものだから、

 ついに母が心労で倒れてしまって、

 このままでは住んでいられないから、
 人を頼んで原因を何とかしてもらうこと
 になったの。


 実際、あたしも気が狂いそうだった。



 それで、どこからその腐敗臭してくるのか
 調べてもらったら、

 暖炉の上の方みたいなの。


 でも暖炉からい上になんか上がれないし、

 暗いからもう自力では
 どうにもできなくって。


 それでどうするかということになって、
 ちょうど春になって暖炉を使わなくて
 済んでいるから


 暖炉と煙突自体解体することになったの。



 そして、出てきたのは。









 黒コゲで見る影のない人の死骸だった。




 だけど、



 なんでそれが家の煙突の中にいたのか。


 全然意味わからなくて。



 どうも、

 煙突の途中で引っ掛かって身動きが
 とれなくなって窒息死したみたいなの。


 それで、冬場だから暖炉から煙が
 大量に出てるから呼吸なんかできる
 ワケなくて中で助けを呼ぶことも
 出来なかったみたい。


 この黒コゲの死体は煙突から進入しようとした
 泥棒だと思われていたの。




 でも、格好が焦げてはいるけど
 厚着で何かに似てた。


 あの夜に街中でよく見かけた
 あの衣装、色は違うけど


 煙突の煙にあぶられ続けて、
 いるうちは薫製みたいな感じだし、
 害虫も外が冬だから

 それほど活発ではなった。



 でも春になってしまったら、
 暖炉も使わなくなるし、

 死骸を分解する虫の活動が
 活発になるから…、



 後はもう急激に腐敗が進んで…





 気持ち悪すぎだった。





 でも、

 あたしはそれが誰だか、

 なんとなくわかっていた。






 もう結果を聞かなくても。

 聞いても同じだった。







 もうとっくに帰って来てた。



 どうして、

 あたしが気が付いて
 あげられなかったのかな?



 あれ以来、あたしにはもう二度と
 
 幸せなクリスマスは訪れることはないの…」



すすだらけで、もう見る影も無い姿に
かわり果ててしまった存在。



子どもの期待に応えようと、
驚かせて喜ばせようとした

そんな愉快な発想からきた、

ただ

純粋に夢をかなえる存在の模倣・再現…



でも、とんでもない結末によって、

夢も期待も、もろく消え失せ、
幸福なときを永遠に喪失した。



ケイトは声を上げることなく

涙していた。


少女の心に背負いきれないほどの

傷痕を深く刻み込んで
最悪の思い出が心を蝕んでいた。



強烈な悪臭と共に忘れられない

心的外傷と…なって。





そういえば

あれからしばらく経つ。

メアリーが出掛けてから、
ビリーは一向に訪れる気配は無い。






皓々と猛る暖炉の焔を前に僕たちは
再び沈黙に心を委ねるだけだった。



ただ、


深々と冬の精が舞い降りて

街は白く染められていく。




悪い予感がしてならなかった。



パーティはまだ始まらない…■










posted by EVILITH at 00:49 | TrackBack(0) | メインコンテンツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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